2016年12月25日日曜日

『逃げるは恥だが役に立つ』第10話に出てきた「やりがい搾取」の使い方は間違い という話

地上波のTBSで放映されていた『逃げ恥』こと『逃げるは恥だが役に立つ』の
第10話『恋愛レボリューション2016』で、
「やりがい搾取に断固反対します」という台詞があったらしい。

民放で頑張った的な感想と一緒に、この話を見かけたので、
珍しく見てみる事にしたわけだが、「それ、使いどころ違う!」って感じだった。

貧困に陥っている人がこの間違い方をすると、さらなる貧困に陥る。
そういう間違え方なので、一言書いておきたくなった次第。

もちろん、ドラマの趣旨は、やりがい搾取に抗議する事ではないし、
やりがい搾取を正しく伝える事ではない。
ドラマとしては、間違って伝わろうが、面白くなればOKだろう。
ドラマの趣旨的には、次にでてくる「好きの搾取」という言葉に繋げたかっただけとも取れる。
少し違うなというのは、分かってやってると思うので咎めるつもりはない。
指摘しておきたいだけ。

ってか、
「間違った使われ方と咎められても、「みくりが間違えてるだけ」と言えるので大丈夫です」
こんな言葉がヒロインの声で再生されそう。
まぁそういう小賢しい理屈で進んでいくドラマ。

逃げ恥 新垣結衣 10話 タイトル

ドラマで出てきた「やりがい搾取」のおさらい

八百屋の手伝いをしていたヒロインが、商売面の発想力を買われ、
商店街の若者の寄り合い付き合わされる。

ヒロインが、商店街を知ってもらうために、神社での青空市を提案する。

青空市に賛同する面々。
しかし、具体的に何を売ったらよいかで悩む店主達。
そこでまた、いろいろ案をだすヒロイン。

そんなこんなで、青空市をやる方向で話が進む。
その流れで「手伝ってくれないかな」と軽く言われて、件の話になる。

人の善意に付けこんで
労働力をタダで使おうとする。
それは搾取です。


たとえば、
「友達だから」「勉強になるから」
「これも貴方のためだから」
などと言って正当な賃金を払わない。


このようなヤリガイ搾取を
見過ごしてはいけません。


私、森山みくりは
ヤリガイの搾取に断固反対します!!


その演説の成果もあり「日給3000円で」ということになり、
じゃぁ、1日3時間だけ手伝います。そうすれば最低時給以上になります。

まぁそんな流れ。

逃げ恥 新垣結衣 やりがい搾取

このやりがい搾取 発言は何がおかしいのか

商店街のお手伝いは、今後も関係が続くのであれば、
無給であっても、互酬性の経済活動とする事ができる。

長期的に、お互いに助け合う関係が構築できるならば、
それは、やりがい搾取とは呼ばない。

現にこのヒロインも、後にお惣菜を分けてもらったりしている。

それに、友達同士の助け合いを、やりがい搾取とするのもよろしくない。
マジでそれは互酬。
そこで金のやりとりはしない方が良い場合が多い。

この演説をまに受けてしまうと、貧しい人はさらに貧しくなるだけ。


ホンモノの やりがい搾取

仕事のやりがいを重視するあまり、過酷な労働条件や低賃金で働く人が居る。
会社がそれを利用して人件費を安く抑え利益を得る。

それがやりがい搾取ってやつ。

命を落とすかもしれない危険な仕事なのに、
バイクでスピードを出して走る事に喜びを感じ、安い賃金で働くバイク便ライダー。
もちろん、事故ったらなんの補償もなくポイ。

会社に認められ、裁量を任され、人や店を切り盛りする事に、喜びや遣り甲斐を見出し、
私生活を捨てて無休で働く雇われ店長。
体を壊したりメンタルやられて働けなくなったら、もちろんポイ。

人の役に立つ事に遣り甲斐を感じ、会社の社会貢献事業に無給で奉仕する社員。
しかし、会社はそれで便益を得る。

これが、典型的なやりがい搾取例。

その瞬間としては、遣り甲斐も報酬の一部となり、労力と対価が釣り合っている。
しかし長期的にみたら、搾取されて使い捨てにされるだけ。
それがやりがい搾取。

多少ごっちゃにされて、ややこしくなるのが昭和時代の話。
昔はみんな過酷な労働環境で働いていた。
それは事実だが、終身雇用でその人の人生が保障されていたわけで、昨今のやりがい搾取とは別の話だ。

「大変だったけど、いい人生だったな」
今の時代のやりがい搾取をされている人は、そんな言葉には到底たどり着かない。

また、ベンチャー企業などで、
一発あてればその人にもリターンが得れる可能性がある状況も別。


根本にありそうな大きな誤解

勘違いしている人が意外に多いのだけど、
お金をやり取りする事が経済じゃなくて、
モノやサービスをやり取りする事、そちらが経済なんだよね。

人々の生活に必要なのはモノやサービスの方で、
お金はそれを得るための手段でしかない。
そういった根本的な事を理解できていない人が多いから困る。

経済には、貨幣による市場経済の他に、互酬性や家計、
自給なんかもあり、最近では評価に基づいた贈与なんかもある。
それらに目が行かなくなっているのは危険な状態であり、
こと裕福でない人間にとっては致命的。


「お金を貰えないなら動かない」それは、自ら経済活動の幅を狭めることになる。
「手伝うから、今度メシ食わしてください」
こんなのも、経済活動として見ることができれば、より豊かに暮らせる。
そういう事だ。

また、これらのお金を介さない経済活動には良い点がある。
市場にお金が回っていないときでも、行う事が出来るのだ。
先のリーマンショックのような時、これが出来ると出来ないとでは、大きく差が出る。
さらに、税金を取られることもない。
(税収とGDPが下がるので、一部の人は嫌がるが。)


ぶっちゃけ、個人的な経験で言えば、
裕福に暮らしている人間の方が、金を使う以外の経済活動を上手く使って出費を抑え、
貧困状態に陥っている人の方が、目先の金に固執するあまり、
お金だけで暮らして割高で質の悪いサービスを受けるハメになっていると思う。


話がそれて来たのでまとめ

やりがい搾取という概念を認識してもらうのは大事。

しかし、間違って認識されるのは困るし、
さらに、それよりもっと大事な、
根本的な経済の認識を誤解させるような内容なのはいただけない。

あと「賃金がもらえたから、やりがい搾取ではない」という間違った認識?
それを与えそうなのも嫌だなーと思う。
賃金が出ていたって、やりがい搾取はやりがい搾取。


これを書いてて思った事

やりがい搾取だのブラック企業だの話と、
互酬性の経済でのフリーライダーの問題は関係しているよなと思った。

結局のところ、win-winの関係が築けなくて、
食うか食われるかのゼロサムゲームとして社会を見ている人?
そういう人と、いかに関わらないか。そこがキモなんだよな。


あと、
やりがい搾取の定義の問題はさておき、
ドラマの中ではその演説でポジションを改善できているわけだし、
ドラマ的にみればみくりの行動としては正解であったろうなと思う。

しかし、いまいちよく分からないのは、
事実婚から籍を入れる事による金銭的メリットに触れていない件。
打算的な関係から、心で繋がる関係に発展したことを際立たせるために、
ドラマ的にあえて抜いた?
そういう事なのかもしれないが、
経済的にはかなりインパクトが大きい事だと思うので少し納得いかない。

このドラマにとって小賢しさとは、所詮そんな扱いだったのかー。
もっともっと、小賢しさは評価されるべき。

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